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chapter5

LastGuardian

chapter5「Practice」

4人の小さな守護者を称えるためか、神下市の夏の風は心地よかった。
向かい風に髪が靡く。

住宅街の一角に来ると、レドナはひょいとスケボーから飛び降りた。

レドナ「香澄とフィーノはここで待機。
    ここなら、掲示板があるから、ボケッとたってても怪しまれない」

そういって、親指で後方の市の掲示板を指差した。

香澄「オッケー。
   人が来たときは"そこを右"だね?」
レドナ「おう、人が来たとか、どうどうというと危ないからな」

苦笑しつつも、要領のよい部下に安心する。
まぁ、1人を除くが、こういうときはそうも言ってられない。

真「じゃ、ちゃっちゃと終らせようぜ」

そう言って、真は自転車をこぎ出した。

レドナ「あぁ、じゃ、頼んだぞ」
フィーノ「お2人も気をつけて~」

レドナもそれに続き、スケボーに飛び乗り、すぐに追いついた。
2人と離れてから、数十秒。
問題のガードレールが発見できた。
と言っても、魔法陣はガードレールの裏にある。
ガードレールの裏を見る奇々怪々な奴はそうそう居ない。

レドナ「今日は何処にする?」

トランシーバー越しに、レドナが訊いた。
少しのノイズと共に、

香澄「まだまだ左だよ~」

の声が返ってきた。
これも、怪しまれないための作戦だった。
"今日何処にする?"は"人来てるか?"であり、
"まだまだ左だよ"は"全然来てないよ"というわけだ。

その声が返ってきて、真が頷くと、レドナは強く念じた。
瞬間、蒼白い光がレドナの右手から放たれ、それは大剣へと具現化した。
漆黒の刃を輝かせる大剣、グリュンヒルだ。

レドナはガードレールから距離を置き、一気に突っ走る。
鋭い刃の刺突が、ガードレールに直撃する。
気合の一声を入れたかったが、そんなことをするとばれてしまう。
大剣の一撃は大きく、ガードレールをひん曲げた。
同時に、魔法陣も砂のように消えていった。
後は仕上げ、

レドナ「お前、大丈夫か?」
真「いってて・・・ガードレールにぶつかるなんて、久しぶりだぜ、ははは・・・」

これが、ガードレールをひん曲げた音の不自然さを無くす作戦だ。
再びレドナは、トランシーバーを持ち、次の指示を出した。

レドナ「たぶん、そこで合ってるぜ。
    後は大丈夫」
香澄「りょうかーい!」

推測は付くと思うが、解説しておくと、
"たぶん、そこで合ってるぜ"は"こっちの方は成功したぜ"であり、
"後は大丈夫"は"次のポイントに向かってくれ"である。

その間、真はわざと倒した自転車を起こしていた。

30秒後、香澄からの到着の合図がトランシーバー越しに聞こえた。
一方のレドナと真も市営アパートの公園に来ていた。

フィーノ「香澄さん、あれ」
香澄「ぁ、そこ、そろそろ右かも」

フィーノの囁きに、香澄が素早く合図を送る。
トランシーバー越しの声に気づき、自然な形でレドナは真と話す。

ベンチに座っているが、目は滑り台の真下の魔法陣を凝視している。
すると、報告通りに、人が来た。
何も察することなく、市営アパートの前を通り過ぎるそのサラリーマン風の人。
その間、極力今時のドラマの話をするレドナと真。
平然とした町並みにサラリーマン風の男は消えていった。

レドナ「今日、何処にする?」
香澄「まだまだ左、左~」

瞬間、レドナはグリュンヒルを具現化させ、瞬時に破壊した。
公園の砂地に大きく抉れた後が残ったが、足でさっと隠して2人は公園を出た。

レドナ「たぶん、そこで合ってるぜ
    後は大丈夫」
香澄「了解~」

数秒後、フィーノと香澄が家と家の中から現れた。
複雑かつ死角の多いこの住宅街。
全然見えていなくても、距離的には100m走とほぼ変わらない。

フィーノ「次は公園ですね?」
真「おう!じゃ、俺と暁は南口のほうだな」
香澄「そだね、じゃ、私とフィーノちゃんは北口から行くよ」

こういうときに、昔から住む地元の人の感覚はそうとう役立つ。
作戦では、ここは話し合ってないが、距離を把握しているため、彼らの発言で成功する可能性は一番高い。

4人は頷き、途中まで同じルートを行き、途中でまた2グループに分かれた。

目的地、神下中央公園。
その名のとおり神下市中央部を占める巨大な公園である。
神下市に住んでいて名を知らない、むしろ言ったことは無いという人はほとんどいない。
入り口は東西南北に各1つずつ。
その西側には巨大な池、東側には遊具、南側と北側は広場と球技コート。
でかいわりには、きっちりと多用に遊べる構造である。
また、ここはデートスポットでも有名であることは備考程度に覚えていておくとよい。

そして、今回の作戦である南口付近のトイレ。
計5つあるトイレのうち、点々と障害物が近くにある、と告げるフィーノの探索魔法。
というと、広場メインの北側、池のある西側は消去される。
残る2つだが、"点々と"ということから、これはバスケのゴールやサッカーのゴールだという推測がつく。
東側の遊具は点々と言うには無理があるほどの遊具がある。
無駄に4台もある馬鹿でかい滑り台やブランコを連想する。
そうすると、球技コートメインの南側であることは理解できるだろう。

そうこうする間に、レドナと真は南口に、香澄とフィーノは北口に到着した。
トイレの目の前で、真が中を確認する。
誰も居ないことが分かり、合図を出す。
目でそれを受け取り、今度はレドナがトランシーバーに向かって指示を出す。

レドナ「今日は何処にする?」
香澄「う~ん、右右ずーっと右だけど、左かなぁ」

推測するに、広場で遊んでいる人は大量にいるが、トイレに行くやつは無い。
となると、瞬時に決める必要がある。
香澄からの返答が合った瞬間、レドナはトイレの裏に回りこむ。
眼前に入った、日陰の中に堂々と刻まれた魔法陣。
すぐさま強く念じ、右手に蒼白い光。
瞬時のグリュンヒルの具現化と共に、するどい斬激。
2秒後、砕け散り亀裂の走ったそこにはレドナは居なかった。
既に、トイレの中で真と共に居た。

レドナ「たぶん、そこで合ってる。
    じゃ、トイレ前で」
香澄「おっけー!」

数分後、トイレ前に集合し、仲の良い男女4人を出し、公園を後にした。
レドナが時計を確認してみると、予定時間より25秒だけ早かった。
3分以上の遅れがなければ、支障はない。
それに、公園に居た子供の数が減り始めてきた。
そう、親が商店街のタイムセールに出撃する準備のためだ。

真「次はデパートだな」
レドナ「あぁ、後2個、手っ取り早く済ませよう」

10分後、デパートについた一同の予測は的中し、デパートはがら空きだった。
1階の食料品売り場など、4、5人しかいない。
そのままレドナ達は3階の百円均一えと足を運んだ。
そこで、"掃除中、立ち入り禁止"プレートと、数個の菓子と飲み物を買った。
レジの店員は、とても暇そうで、レドナたちが買いに来てくれたのを、大いに喜んだ。
店員の「ありがとうございました~!」の声が通常の2倍の声量がそれを裏付ける。

そして、5階に上がり、誰も居ない屋上に入る。
ドアノブに、先ほどのプレートを引っ掛ける。
これで、致命的なミスがない限り10時間は持つはずだ。
と言うより、10時間も滞在するわけではないのだが。

フィーノ「レドナさん、ありました!」

魔法陣を探していたフィーノが、端っこに堂々と描かれた魔法陣を見つけた。
有無を言う前に、レドナの右手には、グリュンヒルが現れた。

レドナ「よっと!」

地面に、それを叩きつけ、魔法陣を粉砕する。
砕けた地面の破片は放置する。
修復、というのは領域魔法陣展開時にしか使えない。
やむ終えず、の結果である。

真と香澄はさっきかったスナック菓子をぱくつきながら商店街の様子をフェンス越しに見た。
一方のレドナとフィーノは、リグティオンとクシュリダートを装備していた。

真「おっ、そろそろ客が引き始めたぜ」
レドナ「了解」

右手に持った、リグティオンが機械音を立て、先端が割れる。
悪魔で大剣とは分かるが、パッと見はロングレンジライフルを連想させるフォルムになった。
トリガーに指をかけ、アーチ上の魔法陣をロックする。
同時に、フィーノも強く念じて、周囲に魔力を展開させる。

ポツポツと人が消えていく商店街。
商品がほとんど売れて、店を閉めるところもちらほらある。
そして、魔法陣のあるアーチ真下に人が居なくなった。

レドナ「いまだっ!!!」
フィーノ「氷結させよ!コーフィア!!」

トリガーを引っ張る。
白銀の銃剣から、蒼い魔力の弾丸が放たれる。
瞬時、それを追いかける蒼白い魔力の塊、氷結魔法コーフィア。
軌道をそれずに、弾丸がアーチを直撃する。
アーチにひびが入り、弾丸が爆発する直前に、コーフィアが追いつき、瞬時に氷結する―――
はずだった。
瞬時、魔法陣に淡い緑色をした防御壁が張られる。

レドナ「な!り、リフレク!?」

コーフィアが弾き飛ばされる。
弾丸の爆発音が商店街に響いた。

人々が、それに気づき、悲鳴を上げ始めた瞬間。
足元に魔法陣が展開された。
タイプは攻撃型魔法陣。
間違いなく、イクトゥーの宣戦布告の合図であった。
人々が、魔法陣の効力で一時的にこの世界から消える。
確認できるだけで、デパートの屋上に、レドナとフィーノだけとなった。

フィーノ「こ、こんなときに!?」
レドナ「気をつけろ!何処から来るか分からない!」

動揺する、フィーノの注意を入れる。
漆黒の大双剣の名に恥じない、もう一本のグリュンヒルをレドナは具現化させた。
同時に、神下中学校の制服が弾け、シルフィーゼの黒衣がレドナの身を纏う。

???「ふふっ、さぁ、重力を恐れるがいい」

何処からか、少女の声が聞こえる。
瞬間、物凄い重力が2人を襲った。

レドナ「ぐっ!!」
フィーノ「きゃぁっ!!」

立つことが阻まれ、地面に体が完全に引っ付く。
霞む目で、周囲を見ると、アーチの上に、一人の少女が立っていた。
黒いコートを着ている時点で、イクトゥーであることは間違いない。
その少女は、両手で大剣をアーチに突き刺していた。
突き刺さった部分から魔法陣が展開されている。
そのことから、レドナはあれがこの重力の発生源であることを推測した。

???「あら、ラストガーディアンっていうから期待してたのに。
    あっけないね、2人とも」

少女が剣を抜き、襲い掛かってきた。
途端、重力から開放されるが、足がよろけ、立ちきれない。

???「もらった!!」

少女の大剣の矛先が、レドナに向かう。

レドナ「甘く見んなよ!!」

うつ伏せの状態から、跳ね起き、後方に二回回転し、体制を立て直す。
グリュンヒルを盾にし、大剣の刺突を受け止めた。

ヒャイム「そうこなくっちゃ。
     私はヒャイム、イクトゥーの1人よ。
     よろしく、レドナ、それとそこのお嬢さん」
フィーノ「挨拶は受け取ります。
     でも、私達はあなたを倒さなくちゃいけないんです!」

フィーノが攻撃魔法の魔法陣を展開する。

フィーノ「いけっ、フィゴート!!」
ヒャイム「リフレクション!!」

フィーノが放った、魔力の結晶体を、淡い緑の防御壁で弾き返した。
リフレクション、本人の魔力以下の魔力攻撃を完全に弾き返すサポート魔法だ。

弾きかえった魔力の結晶体が、フィーノに向かって放たれる。
それを、リグティオンでレドナが打ち落とした。
魔力結晶対魔力結晶は打ち消しあう。
レドナはその間に、ヒャイムとの距離を縮めていた。
真後ろからふりおろされるグリュンヒルに気づき、ヒャイムは右に避けた。

レドナ(ん?なぜ左に避けない・・・・)

通常、このデパートの屋上、それも今は戦闘は端の方で行われている。
右に避ける手もあることにはある。
だが、この場合左に避けて、おかれているベンチを利用したほうが効率がいいはず。
それに右だと、数歩下がればフェンスである。
その疑問をレドナが抱いている間、ヒャイムは、地面に剣を刺し、例の重力魔法を唱える。

ヒャイム「私の愛剣、グラヴィティーブレイドの重力魔法は易々解除できないよ!」

一気に周辺が重くなるのが感じとれた。
そして、2人は地面に磔状態となる。

レドナ「くそっ!!」
フィーノ「うぅっ!!」

それぞれ、剣と杖で、地面との衝突を防ぐ。
しかし、体にかかる負担が大きすぎた。

レドナ(く・・・なにか欠点があるはず・・・・
    次の重力解除時までに見つけて、奴の攻撃を止めないと・・・・)

苦しむ目で、レドナはヒャイムと、その大剣グラヴィティーブレードを睨んだ。
欠点を見つけるために。
地面に刺さる、グラヴィティーブレイド。
それを両手で握り、苦しむ姿を笑うヒャイム。
グラヴィティーブレイドの先端を中点として描かれている魔法陣。

レドナ(・・・・ん、魔法陣が妙に凸凹している・・・・?)

ほんの0.何の差ではあるが所々凸凹している。
普通、魔法陣というのは横から見たら、綺麗な一直線である。
未完成の魔法陣であれば話は別だが、しゃべり方からして、それは有り得ない。

それに、さっきの避け方。
わざと狭い隙間であっても、障害物のない平地を選んだ。
とすると―――

レドナ(見つけたぜ・・・・おまえの欠点!!)

つい、苦しみも忘れ、にやける。
そして、ヒャイムは剣を抜き、レドナに襲い掛かった。
グリュンヒルで受け止め、思いっきり弾き飛ばす。
剣と剣がぶつかり合い、火花が華麗に散る。
ヒャイムは後方に一回転し、フェンスを蹴って、レドナの反対側の位置に着地した。

レドナ「そこだぁっ!!」

待っていたかのように、リグティオンのトリガーを引っ張る。
先端から放たれたビームは、ヒャイムに当たらず、地面を抉った。
これは、わざと外した。

この距離であれば、重力魔法を唱えたほうが効果的。
唱えないとするならば、いや、唱えられない状況下だとしたら。

ヒャイム「何処を狙っているっ!?」

焦りながら、ヒャイムは抉られた場所から遠ざかるように移動した。
ようするに、レドナの推測は当たった。
極力平らなところでないと、グラヴィティーブレイドの効力は発揮できない。
それを裏付ける証拠が今の行動。

レドナ「何処って・・・・お前の、いや、その大剣の弱点を突いてやってんだよ!!」

ヒャイムの行動を察知し、剣を刺す前にリグティオンの先端からビームが放たれる。
先ほどと同じく地面を抉り、蹴散らした。

フィーノ「ぇ?弱点・・・ですか?」

地面を抉ることが、弱点と理解できていないフィーノが戸惑う。

レドナ「奴のグラヴィティーブレイドは平面じゃないと効力を発揮できない。
    一回目は丁度平面この上ない所だったから重力は強かった。
    だが2回目、フェンス付近で少々凸凹していたから、かろうじて立つことはできた」
ヒャイム「うっ!」

反論できないヒャイム。
それをあざ笑うかのように見つめるレドナ。

ヒャイム「一回でも地面に剣をさせば、私の勝ちだ!!
     次は容赦なく100倍の重力で地面に埋め込んでやる!!」
レドナ「なら、場所を潰すまで!!
    フィーノ、全力で地面を破壊しろ!」
フィーノ「了解ですっ!」

ここで、勝敗を決めるルールが確定した。
平地にグラヴィティーブレイドが刺さればレドナ達の負け。
完全に平地を壊し、ヒャイムを撃退すればレドナ達の勝ち。

レドナ「こっからが本当の戦いだぜ!!」

To be next chapter


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